ラン&ウォーク

「いよいよ出発だ。」
私は高鳴る鼓動を抑え気味に呟いた。ここはハワイ州オアフ島アラモアナショッピングセンター近くのホテルの一室 早朝5時出発のホノルルマラソン 10kmコースラン&ウォークに参加する為に宿泊している。

 私は公的年金支給が始まる65歳になっていた。56歳から三河湾を望むランニングコースを走り脚を鍛えていた。
27歳に新婚旅行で訪れたオアフ島に再び訪れる為、渡航資金の捻出と走れる脚力を維持する取り組みをして来た。
常夏のハワイの平均気温は25℃ で過ごしやすく非常にリラックスできる所だった。

 ハワイの人々は日本人と同じルーツを持つのではと思える程の親近感を覚えた。海に入って泳いだり、空を見上げていると素晴らしい観光地だからまた来たいというだけでは無く 自分の魂の故郷にいる様な感覚になり、帰りたくないなと思ってしまった。
それ位特別な場所に感じた。
帰国すれば日常に戻って会社員生活が始まるので気持ちを現実に合わせた。

 その後テレビでホノルルマラソンに参加している芸能人の番組を見た。
陽気にジョギングしている様子を見ると定年退職後にオアフ島に行ってゆっくりでいいから自分の脚で走ってみたい 老後の目標にしようと思った。

 F1レーサーの中島悟さんは若い頃地元の三ヶ根山スカイラインでドライビング技術を磨いていたと聞いた事があり 自分も地元で走る訓練をして晴れの舞台としてホノルルマラソンに参加しようと思った。

 蒲郡市形原町にあるブルーブリッジ(形原漁港大橋)からの高低差のある景観は見事で初老の男性が短パン Tシャツでジョギングをしていたのを羨望の眼差しで見て以来ここを拠点にしてハワイに挑戦しようと決めていた。

 竹島公園近くに建つ海辺の文学記念館のサービスとして「時手紙」というものが有り2ヶ月後から10年後までの期間で手紙を預かり未来にメッセージを届けてくれると言う。

 56歳になった私は65歳の自分に宛てた手紙を書いた 「公的年金をもらってますか?暮らしは楽しいですか? 誰と遊んでいますか? ホノルルマラソンに参加しましたか? やりたい事だいたい出来ましたか?海の近くに住んでいますか?本を沢山読んでいますか?」 そっと便箋を封筒に入れ職員さんに託していた。

 これで私の潜在意識に希望が刻み込まれて次々達成していくことだろうと自分に期待した。
順調に時は流れ オアフ島に渡航した。「さあ楽しんで走ろう。」