昭和世代

 三河湾沿岸に位置する竹島
ここは私が暮らす県中央部から50kmの距離にある風光明媚な観光地である
記憶を遡ると初めて訪れたのは、小学校低学年の時のバス遠足である。その頃はヘドロの匂いが周囲に立ち込め汚れているなという印象だった。しかしニ度目に訪れた時は、水質改善が図られ随分綺麗になっていた。丁度その頃は生活排水 工業排水の問題がテレビのニュースに流れていたので対策がされたのだろう 良い事だなと思っていた。

 私は自動車の免許を取得するとすぐに中古自動車のトヨタカローラレビンSE 所謂 86では無く85だがを親に購入してもらった。ウキウキして友人と初ドライブをした。防波堤横の空きスペースに愛車を停め 神社に一礼をして海上の竹島に向かい歩道橋を歩いた。
心地良い潮風を頬に受け 私は上機嫌になった。非日常を存分に味わうことが出来たのだ。
その後 暇を見つけては竹島へドライブをした。国道248号線を走り岡崎市から蒲郡市に入りカーブを曲がると一気に旅情気分に浸れるのだ。
山沿いの三河湾スカイライン 三ヶ根山スカイライン夜景は綺麗だし、当時の若者のデートスポットだった。
 会社勤めが始まると 上手く行かない事も有り心のもやもやを晴らす為に蒲郡に1人でドライブしていた。知人と話をしていて知ったのだが、その知人もストレスが溜まると竹島を眺めに来て心が落ち着くと帰宅するのだと言っていた。潮風は人を癒してくれるのだ。蒲郡竹島は我々にとっては無くてはならない場所のようだ。

 私は、やがて結婚し妻のお腹が大きくなり子供が産まれるのを人生最大の楽しみにしていた頃 蒲郡リンクスに妻と母とお腹の子供と一泊旅行に出掛けた。
私は、これからの大切な時間を素敵なものにするため、妻と母にそれぞれ似合いそうな腕時計を購入して夕食後の和室の部屋でプレゼントした。
よろしく頼むよと言う気持ちだった。自画自賛だが良いアイデアだと思った。2001年8月14日早朝に息子は体重3000グラムを超える健康体で産声を上げた。最高に嬉しかった。
これからは妻であり この子のお母さんである妻の言う事は、全部聞こうと思った。
出産室に呼ばれ 我が子を抱かしてもらった時、頭が尖って見えたので看護婦さんに大丈夫ですか?と聞くと「赤ちゃんは産道を通る時に頭蓋骨が重なり合って小さくなるのよ。だから大丈夫」と説明してもらった。感心した。

 息子の名前を決める際 インターネットの姓名判断のサイトを使った。候補の名前を入力して吉凶を確認していた。
当時は小泉純一郎首相の人気が高く 支持率80%とニュースで言っていた。
「じゅん」という響きが気に入り 漢字をどれにしようか思案していた。
その頃同級生の純君のお母さんが私から商品を購入してくれた為 純君が経営しているラーメン屋さんに書類を受け取りに行きがてら ラーメンを注文した。奥さんは、大変働き者で可愛いらしい人だった。
 まるで「北の国から」のドラマで見た1シーンのようだった。

 純君のお父さんは学校や市の施設に置かれる銅像を製作する有名な彫刻家だった  
小学校の図工の時間に純君が描いた絵を見た時に「上手だなー。才能があるなー。」と感心していた。
 純君と少し話をすると「修行には行かず、独学でラーメンの味を探求して、麺は北海道から取り寄せている」と言っていた。

 いよいよ自分のテーブルの前にどんぶりが置かれた。黒いそのどんぶりには「純」と銀色で書かれていた。こだわりを強く感じた。
箸で麺とスープを絡めて口に入れ咀嚼した時だった 「うまい」と感じると同時に純君は この道を選んだのかと感激し涙が流れた。周りに気づかれるのが恥ずかしく すぐに鼻を啜るついでにハンカチで目頭を押さえた。

 会社に戻ると同僚達に「○○町の〇〇ちゃんラーメンの大将は、僕の同級生だから みんなも食べに行ってね。」と宣伝した。後輩が「あそこのラーメンは美味しいからよく行きますよ。」と言ってくれた。繁盛している 良かった。

 そして息子の命名決定に取り掛かった。
当時世間では異常気象による水不足が深刻で水は貴重品とされていた。
水は生命の源。人間の体の60%は水と言われている。それで僕は、「地面や人の乾いた心を潤す人になって欲しい。そして弱きを助ける強い男になって欲しい」という願いを込めて潤也と名付けた。
このフレーズは潤也の結婚式の新郎父の挨拶で使うつもりであったが、最近は披露宴を行わない結婚式が多い事と生涯未婚率が上昇しており結婚が当たり前では無くなっている為 先日息子に命名の理由を話しておいた。

 さて来週に私は56歳になる。世間ではシニアと言われるる世代になった。元号は令和になった。これからの大切な時間を刻んでくれるアナログ腕時計を自分にプレゼントしようかと思っている。SEIKOかCITIZENか それともCASIOか国産にしようと思う。やっぱり日本が好きなのだ。
メーカーは迷っている。
だがテイストは決めている 昭和だ。